第15回 建築文化講演会 レポート

講演レポート

 日本にはあまりなじみのない広場の文化。その中でどうやって人が集まる広場をつくるか。用がある人しか来ない市民館ではなく、人々が自然に集まり思い思いに過ごすイタリア・シエナにあるカンポ広場のような、そんな公共建築ができれば、と冒頭に古谷氏は話す。
 茅野市民館は公開のプロポーザル審査により、市民とのワークショップという共同作業によって設計された。その数は数えられるだけで143回にも及ぶという。

 古谷氏は過去の作品を例に、自身の思考をわかりやすく話してくれた。
 
近藤内科ホスピス
 ルーズな空間を持つナースステーションにより様々な場面に対応させている。心理的にナースコールを手放せない患者をベッドごとナースステーションに泊めることもある。それらを見越してつくったルーズな空間は数台のベッドで埋まる。不安になった患者にとってナースが近くにいることは大きな安心につながる。それは、誰しもが似たような経験があると思う。しかし心身共に健康な人にとって忘れがちな気持ちでもあると感じた。

中里村新庁舎
 公益合併を視野に入れて「役場が役場でなくなったとき」どう使うかをテーマに村の子供たちとワークショップを重ね、可能性を秘めた玉手箱のような建物にした。なかには将来中里村の行政に関わる子供もきっといるだろう。ちなみに工事中に合併が決まり、新庁舎は一度も役場として使われず、現在スポーツジムや図書館などとして利用されているそうだ。

せんだいメディアテークのコンペ
 自ら欲しい情報は比較的簡単に手に入る、そんな時代においての図書館の提案をした。ギャラリーコーナーやカフェコーナーなど、あらゆる場所に本棚があり、借りたいところでバーコードなどでピッとして借りる。好きなところでピッとして返す。電子的に管理された本は分類や整理ではなく、人の動きによって居場所が変わる。そこには本だけでなく偶然出会って知る「ライブ感溢れる広場」がある。
 自著の『古谷誠章の建築ノートShuffled』には「人が人に作用して新しい楽しみが生まれ出てくるような空間をつくりたい。それこそそのキッカケとなったのがせんだいメディアテークの僕の計画案である。」と記している。

 その他、児童館の機能をちりばめ、それをきっかけとして人々の出会いが始まる文化センターや、決められた順序ではなく、人が人を誘って気ままに歩けるアンパンマンミュージアムなどを紹介。

 そして茅野市民館は、JR茅野駅のプラットホームのまん前につくるということで様々な人が行き交うきっかけとなる都市の広場を提案した。プラットホームと市民館を図書館機能で結び、そこからコンサート、展覧会へと誘う。
 143回のワークショップでは実際に市民館を利用する市民たちを、使い方のハード面、またソフト面においても導いているように感じた。とことんまで要望を聞き、皆でシュミレーションして考える。要望が重なりこれは駄目だろうと全員が思ったところに、建築家古谷誠章がマジックを見せて解決する。ヒントは時間軸。
 古谷氏も市民も並々ならぬ情熱を市民館にかたむけ、誰しもが納得して設計が進んでいく。そこには気の強い・弱い、社交的・引っ込み思案など様々な性格や価値観の人々が求めている「人と人とのあり方・かかわり方」への提案が随所に織り込まれている。
 古谷氏は「公共施設はおおらかでルーズな空間にすべきで、ひとつの見方からつくりきってしまわない。建物の内部空間は使う人と相談し、わかりかねた時は家具などで対応する。」と話す。

 講演終わりに会場で販売していた『古谷誠章の建築ノートShuffled』を買った。気恥ずかしくて古谷氏にサインを貰うことは遠慮したが、家に帰って読んだら講演内容がより一層私に染みてくる。
 『端緒』という章で、建築空間を「詩的に始動させる」端緒について書かれている。物理的、空間的な端緒もあるし、物事を考え始めるキッカケという精神的接触のような端緒もある。(これは受け手の能力のほうにかかっている、とも書いてあった。) 
 「誤解を恐れずに、これらを未だかつて見たこともないような新しい建築を生み出すための手がかりにしたい」というこの章の一文。とても気になる。
 また最終章『混沌』では、タイのレールウェイ・マーケット(列車が来るときだけ退ける線路上の市場)を例にし「普通の常識では理解不可能なもののなかに何かまったく新しい問題解決の可能性があることを、熟考しなければならない」と、書かれている。ちなみに、少なくとも余人には想像も及ばないものがあることが事実で、それが「混沌」の語源らしい。
 すべては、最終章の『混沌』に実は結びついている。建築は、生命のように、「おそらく決して完成されることのないままに、これからも絶えずして変形されていくだろう。」と、文末にある。
 
 最後に私の印象に残ったのは、未知なる部分を積極的に把握し、デザイン化していく古谷氏の姿勢である。それは人間の未来・建築の未来へ向けるただならぬ情熱に思えた。ありとあらゆる展開の可能性を、実際に利用する現地の人たちと共に考え、それらをいかにして「建築」としてつくっていくか。未来へ向けた長い時間軸の中で、心と人をデザインする様は、実にリアリティのある手法であると感じた。
 
 「20世紀は物質の時代。21世紀は精神の時代。」と何かで読んだが、それが駆け足で私に向かってきている。

                           平成20年4月   近崎涼子 記

                       Home


■ 題目: 「茅野市民館 都市の広場をつくる」   

講師: 古谷 誠章
 先生
         

■ 日時: 平成20年2月22日(金) 17:30〜19:30

■ 場所: 茨城県立図書館 視聴覚ホール

■ 主催:  社団法人 日本建築学会関東支部茨城支所  
       社団法人 日本建築家協会   茨城地域会   
       財団法人 茨城県建築センター

    共催:  茨城県立図書館  
    後援: 社団法人 茨城県建築士会、
       社団法人 茨城県建築士事務所協会

■ 講師プロフィール

  略歴: 1955 東京都生まれ
       1978 早稲田大学理工学部建築学科卒業
       1980 同大学院博士前期課程(穂積研究室)修了、 小野梓記念芸術賞受賞
       1986 文化庁芸術家在外研究員として、一年間スイスの建築家マリオ・ボッタ事務所に在籍
       1994 早稲田大学理工学部助教授
       1994 八木佐千子と共同してスタジオナスカ(NASCA)を設立
       1997 早稲田大学理工学部教授
  作品・受賞歴
       1991 第8回吉岡賞
       1999 「詩とメルヘン絵本館」 日本建築家協会新人賞
       2000 「やなせたかし記念館」 日本建築学会作品選奨
       2002 「早稲田大学會津八一記念博物館」 日本建築学会作品選奨
       2003 「Zig House/Zag House」 日本建築学会作品選奨
       2004 「近藤内科病院」 日本建築学会作品選奨
       2007 「茅野市民館」 日本建築学会作品賞、作品選奨、日本建築家協会賞、建築業協会賞
  主な著書
           「マリオ・ボッタ−構想と構築」 (鹿島出版会)
           「Shuffled−古谷誠章の建築ノート」 (TOTO出版)  他

2008-04-20